煙々羅は、煙そのものが怪しい形をとったように描かれる妖怪です。はっきりした肉体を持つというより、蚊遣りやかまどの煙が揺らぎながら、人の顔めいた影を浮かべる存在として知られています。
古い地域伝承として広く語り継がれた妖怪というより、江戸時代の絵師・鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に見られる妖怪として扱われることが多い存在です。そのため、現代の妖怪図鑑では「煙の妖怪」「煙に宿った怪異」として紹介される一方、具体的な被害譚や出現地域は明確ではありません。
煙々羅とは?
煙々羅(えんえんら)は、煙がもやもやと集まり、人の顔や姿のように見える日本の妖怪です。鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に描かれたことで知られ、蚊遣りの煙が怪しい形をなす様子と結びついています。
名前に含まれる「羅」は、薄く粗い絹織物を指す言葉とされ、煙が薄布のようにたなびく姿を思わせます。煙々羅は、襲いかかる怪物というより、日常の中にふと立ちのぼる煙が、人の目には妖しく見える瞬間を妖怪化した存在といえます。
煙々羅の基本情報
- 妖怪名
- 煙々羅
- 読み方
- えんえんら
- 別名・異名
- 煙羅煙羅(えんらえんら)と表記されることがあります
- 分類
- 煙の妖怪、自然現象に由来する怪異、異形の妖怪
- 危険度
- 危険度D:無害(★☆☆☆☆)
- 主な出現場所
- 蚊遣りの煙、かまど、風呂場、焚き火、煙の立つ家屋まわり
- 伝承地域
- 特定地域の民間伝承としては明確ではなく、主に鳥山石燕の妖怪画集に基づいて知られています
- 主な特徴
- 煙が寄り集まり、人の顔や薄布のような姿をつくる
煙々羅はどんな妖怪?
煙々羅は、煙の中に人の顔や姿が浮かび上がったように見える妖怪です。姿は不定形で、輪郭ははっきりせず、風に吹かれればほどけてしまいそうな儚さがあります。
鳥山石燕の画では、煙の中に怪しい顔があらわれるように描かれています。そこには、人を襲う場面や祟りの説明はありません。むしろ、夕暮れの家屋、蚊遣りの煙、薄暗い空気といった日常の一場面が、ふと異界に変わる感覚が強く出ています。
昭和以降の妖怪関連書籍では、煙に宿る精霊のようなもの、煙の中に人の顔めいた形で浮かぶものなどとして語られることがあります。ただし、古くから各地で語られた具体的な民間伝承は確認しにくく、石燕の創作性が強い妖怪と見る考えもあります。
煙々羅の特徴

- 煙から形をなす
煙々羅の最大の特徴は、煙そのものが妖怪の姿をとることです。固い肉体を持つのではなく、ゆらめく煙が集まり、人の顔や影のように見える存在として描かれます。 - 薄布のように儚い姿
「羅」は薄い織物を意味するとされます。煙々羅という名には、煙が薄布のようにたなびき、風に破れそうなほど頼りない姿をしているという印象があります。 - 日常の煙に潜む怪異
蚊遣り、かまど、風呂場、焚き火など、昔の暮らしの中には煙が身近にありました。煙々羅は、そうした煙をじっと眺めているうちに、何かの顔が見えてくるような感覚と深く結びついています。 - 明確な被害譚が少ない
煙々羅について、人を襲う、命を奪う、祟るといった伝承は確認しにくい妖怪です。恐ろしさは直接的な危害よりも、煙の中に何かがいると感じる不気味さにあります。
煙々羅の伝承・由来
煙々羅は、鳥山石燕の江戸時代の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に登場する妖怪として知られています。そこでは、蚊遣りの煙がむすぼれて怪しい形をつくり、薄布のように見えることから煙々羅と名づけられた、という趣旨の説明が添えられています。
由来については、煙を見つめる人間の感覚と、古典的な風雅の表現が重なっていると考えられます。『徒然草』十九段に見える、六月ごろの家や蚊遣り火の情景を踏まえた可能性も指摘されています。
ただし、煙々羅は特定の地域で「この場所に現れる」と語り継がれた妖怪というより、石燕の画業と江戸期の妖怪文化の中で形になった存在と見るのが自然です。民俗伝承としての細かな由来は、確認できる情報が限られています。
煙々羅が現れる場所
煙々羅は、煙の立つ場所に現れる妖怪として考えられています。特に、昔の家屋で蚊を追うために焚かれた蚊遣りの煙は、煙々羅の代表的な情景といえます。
- 蚊遣りの煙が立つ古い家
- かまどや囲炉裏のまわり
- 風呂場や湯屋の煙がこもる場所
- 焚き火や野焼きの煙が流れる夕暮れ
現れる地域については、明確に特定できる伝承地は確認されていません。煙という身近な現象と結びつくため、現代の創作や妖怪紹介では「煙のある場所ならどこにでも現れうる妖怪」として描かれることがあります。
煙々羅の危険度
煙々羅の危険度は、危険度D:無害(★☆☆☆☆)です。伝承上、人を襲ったり、祟ったりする妖怪としてはっきり語られているわけではありません。
身体的な危険
煙々羅そのものが人に直接危害を加えるという伝承は、確認できる範囲では明確ではありません。肉体を持つ妖怪ではなく、煙が形をなす怪異として扱われるため、身体的な危険は低いと考えられます。
精神的な影響
煙の中に顔が見えたような気がする、誰かに見られているように感じる、といった不安はあります。煙々羅の怖さは、実害よりも、見慣れた日常が急に怪しく変わる心理的な揺らぎにあります。
遭遇しやすさ
昔の暮らしでは、蚊遣り、かまど、焚き火など、煙に接する機会が多くありました。ただし、煙々羅としての具体的な目撃伝承は多くないため、妖怪としての遭遇しやすさは高くありません。

煙々羅に遭遇したらどうする?
煙々羅への決まった対処法は、古い伝承として明確に残っているわけではありません。ここでは、煙の妖怪という性質をもとに、読み物として自然な向き合い方を紹介します。
- 煙を追いかけない
煙の中に顔が見えても、無理に正体を確かめようとしないほうがよいでしょう。煙々羅は、見ようとするほど形を変え、心をざわつかせる怪異です。 - 火元を静かに確かめる
煙は火と結びついています。妖怪として恐れる前に、蚊遣り、かまど、焚き火などの火元を落ち着いて確認することが大切です。 - 風を入れて煙を逃がす
煙々羅は、煙がこもる場所に姿を見せる存在です。戸を開け、風を通せば、形はほどけて消えていくかもしれません。
※この対処法は、伝承や妖怪の性質をもとにした読み物としての内容です。
煙々羅の怪異譚

ここからは、煙々羅の伝承をもとにした創作怪異譚です。実在の記録ではなく、伝承上の特徴をもとにした短い物語としてお読みください。
蚊遣りの夜
夕暮れになると、その家ではいつも蚊遣りを焚いた。
庭の草は雨を含み、縁側の板はまだ昼の熱を残していた。家の奥では老いた母が眠り、娘は一人、火のついた蚊遣りを土間の端に置いた。
白い煙が、ゆっくりと立ちのぼる。
はじめは、何の変哲もない煙だった。細く伸び、ほどけ、梁の下でうすく広がる。それが、ふと、誰かの横顔のように見えた。
娘は目をこすった。
煙はもう顔ではなかった。ただ、薄い布をねじったように揺れているだけだった。けれども、目をそらすと、また視界の端に鼻筋が浮かぶ。閉じたまぶたのような影ができる。口らしい裂け目が、音もなく開く。
母が奥で咳をした。
娘は蚊遣りを外へ出そうと手を伸ばした。その瞬間、煙がすっと伸びた。細い指のようなものが、火の上から立ち上がり、娘の手首に触れる寸前でほどけた。
熱くはなかった。
冷たくもなかった。
ただ、知らない誰かの息が肌をなでたようだった。
娘は戸を開け放った。夜の風が一気に流れ込み、煙は庭へ逃げた。白い筋は竹垣を越え、屋根の上へ伸び、そこでひとたび人の顔をつくった。
それは笑っているようにも、泣いているようにも見えた。
翌朝、蚊遣り皿には灰だけが残っていた。だが娘は、それ以来、煙をまっすぐ見られなくなった。
煙はただ消えるのではない。見られたことを覚えている。
煙々羅に似た妖怪
- 朧車
はっきりした姿を持たず、夜の気配や視覚的な不気味さと結びつく点で近い妖怪です。煙々羅と同じく、絵画的な印象が強い存在として知られています。 - 付喪神
道具や生活の場に怪異が宿るという点で、煙々羅と響き合います。煙々羅は道具そのものではありませんが、蚊遣りやかまどといった暮らしの中のものから立ち現れる怪異です。 - 火車
火や煙の印象をまとう妖怪として連想される存在です。ただし、火車は死者や葬送と結びつく恐ろしい妖怪であり、煙々羅とは危険性も性質も異なります。
現代での煙々羅のイメージ
煙々羅は、現代の妖怪図鑑、漫画、ゲーム、小説などで、煙を操る妖怪や煙に宿る精霊のように描かれることがあります。姿を自由に変える、空気中を漂う、人の顔だけを煙の中に浮かべるといった表現と相性のよい妖怪です。
古い資料では、蚊遣りの煙が不思議な形になる怪異としての印象が強く、具体的な性格や行動は多く語られていません。その余白があるため、現代では幻想的で美しい妖怪、静かに人を見つめる怪異、煙とともに消える儚い存在として描かれることもあります。

煙々羅に関するよくある質問
煙々羅は実在する妖怪ですか?
煙々羅は、鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に描かれた妖怪として知られています。実在の生物というより、煙が怪しい形に見える感覚や、江戸時代の妖怪文化の中で生まれた怪異として見ることができます。
煙々羅は危険ですか?
煙々羅の危険度は、危険度D:無害(★☆☆☆☆)です。確認できる範囲では、人を襲う、命を奪う、祟るといった伝承は明確ではありません。不気味さはありますが、直接的な害を与える妖怪としては語られにくい存在です。



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